最高水準のサービスをご提供するために──青山特許事務所が「場」に投資する理由
特許事務所の仕事は、普段ほとんど表に出ることはありません。
しかしその一つひとつは、クライアント企業の強みである技術やノウハウを守り、競争優位性を支え、ときには事業そのものの価値を左右します。
クライアント企業の事業戦略を理解し、技術の核心を読み取り、将来を見据えたかたちで権利として整えていく。知的財産サービスは単なる法的手続きではなく、「知的財産」をどう形成し、どう守り、さらにどう活かすかという、企業の経営に直結する仕事です。そこにあるのは、創造的な判断の積み重ねであり、人の知性と責任が問われる領域でもあります。
2025年9月、創業60周年を迎えた青山特許事務所。機械・電気・化学・ライフサイエンスから意匠・商標まで、各分野を専門とする弁理士約100名を擁し、海外案件や特許訴訟においても国内トップクラスの実績を築いてきました。
この高度な専門家集団が、近年あらためて向き合ってきたのが「オフィス」という場でした。知的財産サービスの質を、個人の力量のみに委ねるのではなく、組織としてどう磨き続けるのか。その問いに、空間という切り口から向き合っています。
今回お話を伺ったのは、人事総務部長の高橋健史様。人材と組織の両面を見つめてきた立場から、オフィスに込めた思想と、その背景を語っていただきました。
専門性が高いからこそ、交わる余地をつくる。知的財産サービスの質を“組織として”磨き続けるために
オフィス移転を考え始めた背景には、どのような課題感があったのでしょうか?
高橋様:以前のオフィスでは、ビルの面積の関係で所員が複数のフロアに分かれて働いていました。業務が滞っていたわけでもありませんし、特に問題が顕在化していたわけでもありません。
ただ、特許事務所という組織の特性を踏まえたときに、「このレイアウトは、知財サービスの質を今後も高め続けるために最適なのか」という問いが、次第に強くなっていきました。
私たちは、一人ひとりが高い専門性を持つことで価値を提供しています。
しかし同時に、知財サービスという仕事は、個の専門性を“積み上げる”だけでは十分ではありません。
異なる専門性や様々な経験・分野の視点が重なり合い、相互に検証し、すり合わせることで、初めてクライアントの事業を支えられる最高水準の知財サービスまで高めることができるのです。
そう考えたとき、我々の強みである「交わり」をより自然に生み出すために、日常の働き方を形づくっているオフィスそのものを見直す必要があると感じました。
そこで、皆がワンフロアで行き来しやすい今のオフィスへの移転を決断しました。
環境が変わることで、どのような変化を期待していたのでしょうか?
高橋様:私たちがやりたかったのは、「連携を強めよう」と呼びかけることではありません。制度やルールで交流を促しても、形だけになってしまうことが多いと感じていました。
目指していたのは、意識しなくても、所員同士が関係を持てる状態です。
フロアが分かれていると、「後で聞こう」「また今度にしよう」という判断が積み重なります。それは自然なことですが、その積み重ねが、所員の距離を少しずつ広げていってしまう。
一方で、同じ空間にいれば、
「今、声をかけても大丈夫そうだな」
「ちょっと確認してみようかな」
そうした判断が、無理なくできるようになります。
その交わりがあるかどうかで、論点の深まり方やリスクの捉え方は大きく変わります。知財サービスの質は、個の専門性の高さだけで決まるものではありません。それぞれに際立った専門性がどう結びつくか、そのプロセスそのものが最高水準のサービスをつくると考えています。
「集まる」ことが目的ではない。ワンフロアに託した、知の交差点
新しいオフィスに求めたものは何だったのでしょうか。
高橋様:弁理士の業務は、集中力が成果を左右する仕事です。
深く考え、論点を詰め、言葉を何度も選び直す。その積み重ねが、最終的な権利の強さを決めます。ですから、まず「集中できること」は大前提として守りたかった。
一方で、私たちが長く仕事をしてきた中で実感しているのは、知は一人で完結しないということです。どれだけ専門性を高めても、自分の視点だけでは見えない盲点が必ずある。別の分野の考え方、経験、判断基準に触れることで、初めて視野が広がり、思考の精度が一段上がる。
だからこそ必要だったのが、「接点」です。会議の場として用意されたものではなく、日常の中で、自然に生まれる接点。意図的につくられた交流ではなく、仕事の延長線上で、ふと生まれる会話や問いかけです。
「これ、少し相談してもいいですか?」その一言が、思考の質を変え、結果としてクライアントに提供できる価値を高めていく。そうした経験を、特別な場ではなく、日常の中で積み重ねられる環境をつくりたいと考えました。
それがワンフロアという選択につながったということですね。
高橋様:はい。ワンフロアで、パーティションは設けない。役職や立場で席を分けることもしません。
特許の世界では、肩書きが答えを導くわけではありません。必要なのは、ロジックと知見、そして議論の積み重ねです。
同じ空間にいれば、自然と目に入る、耳に入る情報があります。誰がどんな案件に向き合っているのか、どこで悩んでいるのか。それを“察知できる距離”にいること自体が、学びになります。
この環境では、「成長しよう」と気負わなくても、日々の仕事の中で、自然と他者の知に触れる。その積み重ねが、「自分はここで成長できている」「さらに良い仕事ができるようになっている」という実感につながっていく。
そして、その成長実感こそが、永く働き続けたいと思える理由になり、結果として、クライアントに対して、より厚みのある知財サービスを提供できるようになる。
集中すべきときは、徹底的に集中できる。けれど、顔を上げれば、他分野の知がすぐそこにある。
この距離感を日常にすることが、人を育て、知を育て、組織としての知財サービスの質を高め続けるために、最も重要だと考えています。
「働く」と「遊ぶ」のいいとこ取り。知的生産を支え、優秀な人材を惹きつける梅田という環境
梅田という立地は、青山特許事務所にどのような価値をもたらしていますか。
高橋様:梅田は、関西のどこからでも通いやすい。この「当たり前」に見える条件が、私たちのような特許事務所にとっては、とても本質的な意味を持っています。
特許事務所には、非常に優秀で、同時にとても向上心の高い人材が集まります。研究・開発職出身で技術の背景や理論を深く理解している人、海外案件を多く扱うため単に語学に堪能なだけでなく諸外国の制度の細部まで精通している人、国内だけでなく海外の知財訴訟にも深く関与している人、さらにはライフステージの段階に応じて育児や介護と高度な専門職としてのキャリアを両立している人も少なくありません。
共通しているのは、知的負荷の高い仕事を、長期間にわたって続けているという点です。そうした人材にとって、通勤にかかる時間やストレスは、単なる不便さではなく、集中力や思考の質を確実に削っていく要因になります。
通いやすい場所にオフィスがあるということは、働きやすいという以上に、知を磨き続けるための余白を日常の中に組み込めるということだと考えています。
実際、オフィスのエレベーターを降りると、真下には阪急百貨店があり、梅田のターミナル駅に直結している。少し外に出れば、食や文化、商業が混ざり合う街の空気に触れられる。
通いやすいだけでなく、仕事が終われば、無理なくオンとオフの視点を切り替えられる環境が、すぐそばにあります。
その環境について、高橋さんご自身はどのように感じていますか。
高橋様:私自身はよく、「働く」と「遊ぶ」のいいとこ取り、という言い方をしています。
特許の仕事は、長時間机に向かい、考え続けることが前提です。だからこそ、必要に応じてオンとオフを切り替えられる環境がなければ、思考の質を保ち続けるのは難しくなってしまいます。
梅田には、その切り替えが「無理なく」できるきっかけが、街の中に点在しています。遠くに移動しなくても、日常の延長線上で気分をリセットできる。それが結果として、仕事への没入度を高め、思考の質を支えてくれていると感じています。
ワークライフバランスという言葉で整理すると少し軽く聞こえるかもしれませんが、私たちにとっては、知的生産を長く、安定して続けるための環境設計です。
「この場所でなら、長く働き続けられそうだ」
「ライフステージが変わっても、ここでキャリアを積み重ねていけそうだ」
そう感じてもらえることが、結果として人材の定着につながり、その積み重ねが、最高水準のサービスとしてクライアントに還元されていく。
梅田という場所は、私たちにとって単なる住所ではなく、知を育て続けるための“土壌”なのだと思います。
「和をもって働く」は、最先端の組織戦略。知のつながりをつくって、専門家集団が60年続いてきた理由
青山特許事務所が、組織づくりにおいて最も大切にしてきた価値観は何でしょうか。
高橋様:創業者の青山 葆(あおやま・たもつ)が掲げた理念に、「和をもって働く」という言葉があります。この言葉は、一見するととても日本的で、どこか精神論のようにも聞こえるかもしれません。
ただ、私たちが60年にわたって実践してきた中で感じているのは、これは決して抽象的な理念ではなく、極めて実践的で、合理的な組織戦略だということです。
特許事務所は、専門性の塊のような組織です。弁理士はそれぞれ異なる技術分野を極め、事務担当者は語学力や法的手続きの専門性を磨き続けています。
一方で、専門性を高めれば高めるほど、人は自分の領域に閉じこもりやすくなる。これは個人の性格の問題ではなく、専門職である以上、避けられない構造だと思っています。
だからこそ、意識的に「横のつながり」をつくる必要がある。知を孤立させないために、人と人をつなぎ続ける。新入所員歓迎会や所内イベントは、そのための“装置”ですし、日常のちょっとした会話や、気軽に声をかけられる空気感も、同じ目的を持っています。
青山特許事務所の知財サービスは、一人の知識だけで完成するものではありません。異なる分野の知見が交差し、議論され、磨かれていく中で、初めてクライアントの技術や事業を守れる最高水準のサービスになります。
知財サービスの質は、個人の能力だけで決まるものではない。人と人との関係性の上に成り立っている。私たちは、そう信じています。
その「和」を支える環境として、阪急阪神のオフィスはどのような存在だと感じていますか。
高橋様:一言で言えば、「信頼」を預けられるパートナーだと思っています。
知的財産サービスという仕事は、クライアントの技術や未来を預かる、非常に重い責任を伴います。その重責を担う私たち自身が、不安を抱えながら働いていては、本来の力を発揮できません。
災害対策やセキュリティ、日々の管理体制といったハード面はもちろんですが、それ以上に大きいのは、街やテナントとの関係性を大切にし、企業対企業として誠実に向き合ってくれる阪急阪神のスタッフの皆さんの姿勢です。
この場所で働いていれば大丈夫だ、このパートナーとなら永く付き合える。そう思える安心感があるからこそ、私たちは目の前の業務に集中できる。
ひいては、人が定着し、知が蓄積され、それがまた次の世代へと受け継がれていく。
「和をもって働く」という理念は、人と人をつなぎ、知のつながりをつくって、組織としての厚みを育てていくための思想です。
そして、その思想を現実のものとして支えてくれているのが、この梅田という場所であり、阪急阪神のオフィスなのだと思っています。
※掲載内容は取材当時のものです。




