コラム

【セッションレポート|阪急阪神のオフィスサミット2025】日本一の社員食堂をつくったオフィス環境

『阪急阪神のオフィスサミット2025』の会場で、マイクを手に講演を行う登壇者の様子。

2025年11月5日・6日の2日間にわたり、大阪梅田ツインタワーズ・サウスにて「阪急阪神のオフィスサミット2025」が開催されました。本サミットは、“働く場の価値を再定義する” をテーマに、企業の人的資本経営、働き方、ワークプレイス戦略、コミュニティ形成、災害対策、大学との連携など、オフィスにまつわる幅広いテーマを扱ったイベントです。会場には多様な業種のワーカーや企業担当者が集まり、講演・見学ツアー・交流会を通じて、これからのオフィスが果たす役割について活発な議論が行われました。

本記事では、サミット当日の各セッション内容を、講演の背景・主張・示唆を中心にレポートとしてまとめています。阪急阪神ビルマネジメントが考える“働く場の価値づくり”の視点とともに、参加者にとって印象的であったポイントを紐解いていきます。

■ SESSION INFORMATION | セッション②

【開催日】
2025年11月5日
【登壇者】
日本ビジネスシステムズ株式会社(JBS)
 GA本部長 櫻井 正樹 氏
【テーマ】
日本一の社員食堂をつくったオフィス環境

食堂から始まった“JBSらしいオフィス戦略”

櫻井氏の講演は、「なぜJBSはここまで“食”にこだわったのか」という根源的な問いから始まりました。クラウドインテグレーターとして成長を続ける同社では、組織規模の拡大とともに、社員同士の接点が減り、部署間の壁が徐々に厚くなるという課題が現れていました。リモートワークが進んだことで、会議はオンライン化し、日常の雑談はほとんど失われました。そうした環境変化の中で、コミュニケーションの「熱」や「温度」が薄れていく感覚があったと櫻井氏は語ります。

セッションの中には「オンラインでは失われるものがある」という一言があり、業務上のやり取りだけでは測れない“人のつながり”の価値を再認識する必要性が示されていました。そこで同社が目を向けたのが、“誰もが必ず訪れる食”でした。社員が自然と集まり、互いに声を掛け合い、気軽に話し始める。そんな「偶然の出会い」が最も生まれやすい場所こそ、食堂だったのです。

リモートワークが普及した現代では、オフィスに行く理由そのものが問われています。櫻井氏は「オフィスに行きたくなる理由をつくることが戦略そのもの」と強調し、その象徴として誕生したのが社員食堂“Lucy’s”でした。

Lucy’sは“社員食堂”ではなくコミュニケーションの「基礎インフラ」

JBSがつくったLucy’sは、単なる社員食堂とはまったく異なる思想から生まれています。櫻井氏は、「Lucy’sはコミュニケーションの“基礎インフラ”だ」と語りました。食事を提供する場所というよりも、人と人がつながるための“土壌”をつくることを目的とした空間なのです。

社員食堂としては異例の、1日580食・ドリンク550杯という圧倒的な利用率は、設計思想が社員の行動にどれほど作用しているかを示しています。空間の中心動線に食堂を置くことで、社員は仕事の合間や会議の前後に自然と立ち寄るようになります。そこで交わされる何気ない会話こそ、組織のつながりを強める原動力になります。

また、食堂は日中のランチ提供だけでなく、夜にはラウンジ・イベント会場としても活用されています。吹き抜けの壮大な空間に象徴的なカウンター、個性的な個室群。食堂に足を運んだ人が「ここは単なるランチスペースではない」と感じるような体験価値が随所に散りばめられており、空間そのものが“企業文化を語る存在”になっています。

成功の裏にあった“覚悟ある意思決定”

『阪急阪神のオフィスサミット2025』の会場内で参加者がセミナーを受講している様子。

櫻井氏のセッションで印象的だったのは、Lucy’sの成功は偶然ではなく、明確な戦略と強い意志によって実現したという点でした。

まず最も大きいのは、経営トップの強いコミットメントです。社員食堂は、売上やKPIで直接測りにくい領域であり、費用対効果が可視化しづらいからこそ、経営層の理解と意思決定が不可欠です。櫻井氏は「トップの強い思いがなければ絶対に実現しなかった」と語り、場づくりに対する経営の姿勢がプロジェクトを後押ししたことを強調していました。

また、担当者自身が“自分が一番使いたい空間”をつくることに徹底した点も大きいと言います。多くの企業では、多様な意見を集めるほど無難な空間になりがちです。しかしJBSは「振り切ったデザイン」を選択し、他にない特徴を持つ空間を意図的に生み出しました。この「無難にしない」という意思決定が、Lucy’sの個性と魅力に直結しています。

さらに、飲食空間において「コストと満足度は比例する」という事実を受け入れ、運営面でも妥協しなかった点が成功を支えています。食事の味、サービス、導線、イベント運用まで、飲食運営会社と毎週のように改善会議を行い、クオリティを維持し続ける体制を整えていることが印象的でした。

Lucy’sがもたらした影響は“コミュニケーション”だけではない

Lucy’sはコミュニケーションの場として機能するだけでなく、企業活動全体に広く影響を与えています。

まず、社員の心理的安全性が向上しました。部署や役職を超えた会話が増えることで、社内の風通しが良くなり、社員が意見を伝えやすくなる効果が生まれています。気軽に声をかけ合う文化が根づくことで、プロジェクトのスピード感や情報共有の質も高まり、組織の生産性向上にもつながっています。

採用面においてもLucy’sは非常に強い武器となりました。候補者がオフィスを訪問した際、食堂を見た瞬間に「ここで働きたい」と感じるケースが多く、空間自体が企業の魅力を語る存在になっているのです。櫻井氏は「Lucy’sは企業文化の象徴であり、採用の中心」と語り、その戦略的価値を強調しました。

さらに、食堂という“人が集まる場所”を基点に、社内イベントや外部との交流も盛んになりました。ファミリーデーや社内勉強会、異業種交流イベントなど、多様な機会が生まれ、学びと協働の文化が加速しています。こうした場が新しいアイデアやイノベーションの種を生むことは言うまでもありません。

“行きたいと思えるオフィス”をつくることが、本質的なオフィス戦略になる

講演の終盤、櫻井氏が語ったメッセージが非常に印象的でした。

「オフィスは、行かなければいけない場所ではなく、行きたいと思える場所であるべきです。」

この一言は、現代のオフィス戦略の本質を端的に表しています。
働き方が多様化し、リモートワークが一般的になった今、オフィスはもはや“作業する場所”ではなく、“人がつながり、学び、成長するための場所”へと変わりつつあります。そこに必要なのは、家具の種類でも、会議室の数でもありません。社員が「行きたい」と思う理由であり、JBSにとってそれが“食”でした。

櫻井氏は「あなたの会社の空間は、社員に何を語っていますか」と参加者に問いかけ、場づくりが企業文化そのものに直結するというメッセージで講演を締めくくりました。

まとめ

本セッションは、“食”という一見オフィスとは距離があるテーマを、人的資本経営・文化醸成・コミュニティ形成の中心に据えることで、企業の未来を変える実例として非常に示唆に富んでいました。

JBSの取り組みは、社員食堂をつくった話ではありません。
「人が集まる理由をつくり、企業文化を育て、働く場を戦略資産に変えた」
という、極めて本質的なオフィス戦略の話でした。

働く場の価値が問われる今、Lucy’sの事例は、これからのオフィスづくりを考えるすべての企業にとって大きなヒントとなるはずです。

※掲載内容は取材当時のものです。

顎に手を添えて考え込んでいる女性

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