エイチ・ツー・オー リテイリングの未来を見据えた企業価値向上を引き出す戦略的オフィス移転
エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社は、2022年8月に大阪梅田ツインタワーズ・サウスへ本社を移転しました。このオフィスの設計には、従業員の働き方を根本から見直し、企業価値を最大化するための革新的なアイデアが詰まっています。
本インタビューでは、同社の梶山智宏氏が語る、移転プロジェクトの背景、オフィスがもたらす影響、そして今後のビジョンについて掘り下げていきます。
新オフィスがもたらす革新と成長の基盤
大阪梅田ツインタワーズ・サウスへの移転を決めた理由は何ですか?
梶山氏: 私たちは、オフィスという環境を変えることを、企業価値を高めるための第一歩と考えました。移転の目的は、働き方を根本から見直し、企業の力である従業員の思考を最大限に拡張することで、新しいサービスや価値の創造を促進することでした。特に、百貨店業界全体が衰退の危機に直面しているという危機感があり、まずは環境を変えることから推進していこうと考えたのです。
大阪梅田ツインタワーズ・サウスでは、専有フロアだけでなく、ビル全体を自分たちのオフィスのように活用することで、従来のオフィスでは得られなかった利便性やコミュニケーションの質を向上させることができています。このようなビルは東京では多く見られるかもしれませんが、大阪では非常に貴重な存在です。
私自身も、朝にはビル内にある共有ラウンジスペース「WELLCO(ウェルコ)」を利用するのが日課となりました。特に開放感のあるカフェスペースがお気に入りで、同じビルの他テナントの方もよく見かけます。この時間は非常に贅沢で、今日一日の仕事をどう進めるかをプランニングしたり、モードの切り替えを行うための貴重な時間となっています。
オフィス移転プロジェクトはどのように進められましたか?
梶山氏: 移転プロジェクトは、トップダウンの指示で進めるのではなく、プロジェクトメンバーが中心となり全体に波及させ、新しい働き方を創るというアプローチを取りました。約10名のメンバーが集まり、それぞれの視点や意見を持ち寄り、全員が納得でき、成長できるオフィス創りを目指しました。
メンバーは、男女問わず、年齢層もさまざまで、「オフィス創り」という限られた分野ながらも、幅広く深い視点で物事を考え、提案・議論する貴重な経験を積むことができました。約50ページにわたるルールブックの作成や、会議室にコンセプトを持たせた設計など、期待を超えるオフィスが完成したのは、メンバーがプロジェクトを通じて成長し、より広い視野を持つ力を培った結果だと確信しています。
もちろん、すべてが順風満帆だったわけではなく、抵抗や意見の相違もありました。しかし、最終的に形となった成果物が残ることで、組織の成長に貢献できたという実感を得たとの声が多く聞かれました。
共創と柔軟性を重視したオフィス設計
フリーアドレスやABWを並行して導入した背景とその狙いについて教えてください。
梶山氏: フリーアドレスの導入は、企業の成長と新たな価値創造に不可欠であると考えたためです。従業員が固定された席に縛られず、各自にとって最適な環境で働けることが、イノベーションを促進し、事業の進化を支える重要な要素だと判断しました。特に、新規事業の立ち上げや既存事業の変革において、柔軟かつ創造的な働き方が求められる中、フリーアドレスの導入は自然な選択でした。
また、部課長を含めた全従業員にフリーアドレス制を徹底することを初期段階から重視しました。全従業員が平等に、自由な場所で働ける環境を整えることが、私たちの組織にとって重要な要件でした。異なる部門や役職を越えたコミュニケーションが新しい価値を生み出すことを期待していたからです。実際に、フリーアドレスにより偶発的なコミュニケーションが生まれ、新たなアイデアや発想につながっています。
さらに、こうした偶発的なコミュニケーションを促進するために、オフィスの設計にも工夫を凝らしました。例えば、オフィスの端にパントリーやプリンターなどの目的地を配置することで、従業員同士が自然とすれ違うような動線を設計しました。
フリーアドレスの導入にあたっては、管理職層から「部下の姿が見えなくなることで、マネジメントが難しくなるのではないか」という懸念の声が上がりました。従来の固定席制では、業務の進捗やパフォーマンスを目に見える形で把握できていましたが、フリーアドレスではそれが難しいと感じたのです。そこで、私たちはマネジメント方法そのものを再考し、積極的なコミュニケーションによるマネジメントへの移行を推進しました。デジタルを活用したコミュニケーションや効率的なチームミーティング、必要なときにはチームで近くに席を確保することなどを通じて、部下の状況や課題を把握し、席の配置に頼らずとも効果的なマネジメントができる環境を整えました。このようにして、働き方の見直しと新たなマネジメント手法を実践し、管理職層の懸念にも対応してきました。
私たちが目指しているのは、単なるオフィス設計の枠を越えて、全従業員が共に成長し、新しい文化を創り上げるための共創の場を提供することです。オフィスをハブとして、従業員が協力し合い、生産性を高めるための試行錯誤を重ねています。集中したいときには静かなゾーンで作業したり、可動式のデスクで隣の席とつなげてアイデアを出し合うなど、ABW(Activity Based Working)の導入が組織の効率化と価値創造の基盤になると確信しています。
専有部のレイアウトやデザインの特徴について教えてください。
梶山氏: 専有部のデザインには、視線を遮らないオープンなレイアウトを採用しています。什器に高低差をつけ、通路の視界を確保することで、オフィス内の動線をスムーズにし、誰がどこで何をしているのかが一目で分かるように工夫しました。また、スタンディングテーブルを各所に設置することで、自然にブレインストーミングが発生するような仕掛けを散りばめています。
オフィスには多くのグリーンや自然光を取り入れ、リラックスした雰囲気と明るさのある空間創りを意識しました。これにより、従業員は自然を感じながら仕事に集中できる環境が整い、従業員同士の交流がさらに深まっています。
さらに、会議室にも特別なこだわりを持たせています。頭文字を合わせると「ともにうみだす」という単語になるようなコンセプトを採用しました。これは、オフィス移転プロジェクトメンバーのアイデアで生まれたものです。例えば、会議室には「にこにこ」などの名前がつけられており、前向きなコミュニケーションが自然に生まれるような工夫を施しています。この結果、会議の進行や内容にもポジティブな影響が生まれ、より建設的で活発な議論ができる場を提供しています。
さらに、「うめラボ」というコラボレーションスペースも設けており、このスペースを活用したさまざまな社内イベントの開催を進めています。部門間の壁を越え、グループ全体でのコミュニケーションやコラボレーションを活発化させ、新しい価値を「共創」していくことを目指しています。コラボレーションスペースのテーブルには、大阪・泉州の森の間伐材を使用しており、使えば使うほど馴染んでいく質感が特徴です。このように、オフィス全体で自然の風合いを活かしたデザインにこだわり、働く環境に明るさと心地よさを追求しました。
新オフィスがもたらす影響と未来の展望
新オフィスが採用活動や従業員エンゲージメントにどのような影響を与えましたか?
梶山氏: 新オフィスは、採用活動において非常にポジティブな影響を与えています。面接に来る候補者たちからは、オフィスに足を踏み入れた瞬間から、そのデザインや空間の広がりに感銘を受けたという声が届いています。特に、エントランスから会議室スペースまでのつながりを意識した設計により、オフィス全体の奥行きと一体感を感じてもらえるようになっています。
オフィス移転後のサーベイでは、会話の質が向上したとの声が多く、特に偶発的に生まれるコミュニケーションが業務の中で重要な役割を果たすようになりました。以前は近隣の同じメンバーと繰り返されていた雑談は減りましたが、代わりに目当ての人やたまたま出会った人との会話がより意義深いものになったとの結果がありました。
さらに、オフィス全体に広がるカジュアルで明るい雰囲気は、従業員のモチベーションを高め、企業のブランディングにも大きく寄与しています。このような環境が、採用活動において優秀な人材を引きつけ、従業員の満足度やエンゲージメントの向上にもつながっていると実感しています。
大阪梅田ツインタワーズ・サウスを拠点とした今後の事業計画や目標についてお聞かせください。
梶山氏: 百貨店業界は現在、大きな変革期にあり、新しい価値の創造が不可欠となっています。私たちは、この新オフィスを拠点として、共創の精神を軸に社内外でのコラボレーションを積極的に促進し、新たなビジネスモデルを確立していくことを目指しています。特に、「うめラボ」を活用し、部門を越えた共創の場を提供することで、独創的なアイデアやイノベーションを生み出したいと考えています。すでに社内イベントを通じて、部門間の垣根を越えたコミュニケーションを促進しており、今後はグループ全体、さらには社外との連携も強化して、新たな価値を「共創」していきたいと考えています。
今後の目標としては、オフィス内のさまざまなスペースを最大限に活用し、従業員が自発的に新しい価値を生み出す環境を整えることです。また、グループや外部からのゲストにもこのスペースを活用していただき、さまざまな視点を取り入れることで、より豊かなビジネス環境を築いていきたいと考えています。
※掲載内容は取材当時のものです。