【イベントレポート】採用力を高めるオフィス戦略~人材を惹きつけるオフィスとは?~
2024年12月、阪急阪神不動産株式会社を含む4社が共同で「採用力を高めるオフィス戦略~人材を惹きつけるオフィスとは?~」をテーマにセミナーを実施しました。本セミナーでは、各企業が最新のデータや事例をもとに、人材を惹きつけるオフィス環境の構築方法や具体的な取り組みを共有しました。
企業にとって、人材は成長を支える最重要リソースです。「人を採用する」という行為は企業にとって大きな投資であり、その価値を最大化するには、働き方や働く場所を見直し、時代やニーズに応じて進化させ続ける必要があります。
本セミナーでは、若手人材の価値観、関西エリアの中でも特に「梅田」における企業移転の動向が注目され、多角的な視点から採用戦略を支えるオフィスづくりの重要性が語られました。本記事では、セミナーで紹介された発表内容をわかりやすくまとめ、「人を惹きつけるオフィス戦略」のヒントをお届けします。
1. 若手採用市場の現状について/若手人材の職業観について
スピーカー:株式会社マイナビ 板谷 健吾氏
板谷氏:現在、多くの企業が優秀な若手人材の確保と定着を経営課題に抱えています。しかし、昨今の採用市場では、求職者と企業の関係性が大きく変化しており、従来の手法では十分な人材確保がますます困難になっているのが現状です。では、採用市場は今どうなっているのでしょうか。
1987年以降の有効求人倍率を見てみると、バブル期(1990年頃)は2.86倍、2025年卒の最新データでは1.75倍と、数値上は現在の方が企業優位に見えます。しかし、実際の採用難易度は高まっており、関西エリアでも企業の採用活動が活発化する一方で、人材確保は依然として難しい状況です。

この背景には、単に少子化だけでなく、若手人材の価値観や職業観の変化が関係しています。つまり、従来の採用戦略が通用しない新たな市場環境に企業は直面しているのです。
特に注目すべきは、若手人材の企業選びの基準です。かつては「やりたい仕事がある」ことが重視されていましたが、現在は「安定している企業」が6年連続で最も求められる条件となっています。

また、「企業の安定性をどう判断するか」というアンケートでは、1位「福利厚生が充実している」、2位「安心して働ける環境がある」となり、売上高や企業規模よりも、職場環境の整備が安定性の指標として重視されていることがわかります。
こうした価値観の変化に対応するには、企業は採用活動だけでなく、働く環境の整備にも力を入れる必要があります。特に、オフィス環境の充実は人材確保における重要な要素となり、単なる「働きやすさ」だけでなく、「この環境で働きたい」と思わせる空間設計が、企業の魅力を高める要素となります。
現在の売り手市場(求職者優位)において優秀な人材を惹きつけるためには、オフィス環境や福利厚生の充実が不可欠だと考えられます。
2. 関西エリアにおける企業動向について~人材獲得のキーワードは新オフィス?~
スピーカー:ジョーンズ ラング ラサール株式会社 山田 祐輔氏
山田氏:関西エリアのオフィス移転では「リクルーティング強化」を目的とする企業が増え、特に梅田エリアへの移転が加速しています。ジョーンズ ラング ラサール株式会社(以下、JLL)の調査でも、多くの企業が採用力向上を理由に移転を決定していることが明らかになっています。

梅田は、企業ブランドの向上や求職者への訴求力強化の面で評価が高く、移転先として選ばれています。
例えば、「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」に移転した東洋炭素株式会社は「エンゲージメントの向上ならびに優秀な人材確保のために利便性、機能性に優れた新たな拠点を確保するため」、関西ペイント株式会社は「人財が最大限に活躍できるため」という点を移転理由に挙げています。

では、なぜ梅田エリアが企業の採用力向上に寄与するのでしょうか?
「働く場所」は求職者にとって重要な要素です。梅田は関西のビジネス中心地であり、大手企業の集積、駅直結の利便性、周辺環境の充実度などが高く評価されています。こうした立地への移転は企業イメージを向上させるだけでなく、従業員のモチベーションや出社率、社内の活性化にも好影響を与えます。結果、採用力だけでなく、定着率やエンゲージメント向上にもつながります。
当社も、採用力強化を目的にオフィス移転を実施しました。リクルーティングを意識したオフィス設計に加え、コミュニティ形成やイベント開催、オフィス運用の改善を推進し、社員満足度の向上や離職率・内定者辞退率の低下を実現しました。この経験を通じ、オフィス環境が採用力や人材定着に与える影響の大きさを改めて実感しています。

こうした事例からも、オフィスは単なるコストではなく、企業成長を支える戦略的な投資であることが明らかです。採用競争が激化する中、企業が選ばれるには、給与や福利厚生に加え「どこで働くか」という環境の充実が不可欠です。特に梅田のようなエリアは、立地以上の価値を持ち、企業の競争力を高める重要な要素となっています。
3. 人材獲得のためのオフィスづくり
スピーカー:株式会社オカムラ 轟木 咲野華氏
轟木氏:近年、若手人材が学ぶ環境は大きく変化し、大学生活を通じて柔軟な学びの場を経験しています。その影響で、就職後の働く環境にも多様性や快適さを求める傾向が強まり、企業は採用競争を勝ち抜くためにオフィス環境の見直しが求められています。
調査では、就職活動時に「オフィス環境を意識する」と回答した学生は77%に達し、約73%の学生がオフィスを見て企業の印象が変わったと回答しています。「活気がない」「古臭い」といった要素が求職者の志望意欲を下げる原因となることも指摘されています。
つまり、優秀な若手人材を惹きつけるためには、オフィスを単なる執務スペースではなく、企業のブランド価値を示す場へと進化させる必要があります。

左:会社を選ぶ際にオフィス環境を重視したか/右:オフィスを見て印象が変わったか
では、どのようなオフィス環境が求められているのでしょうか?
若手人材は「多様な作業空間」を重視します。ラーニングコモンズやオンライン講義など柔軟な学習環境で育った世代は、固定席のみのオフィスではパフォーマンスを発揮しにくいため、フレキシブルなワークプレイスの整備が不可欠です。

また、オフィスの価値は設備やデザインだけでなく、企業文化や社員同士のつながりといった「ソフト面」にも左右されます。交流を促すイベントや自然なコミュニケーションが生まれる仕組みは、企業への愛着を高め、働くことへのポジティブな印象を強めます。
さらに、ウェルビーイングの視点も重要です。快適な職場環境は生産性や創造性を高めるだけでなく、雰囲気にも影響を与えます。活気があり、笑顔があふれる職場は求職者にとって魅力的であり、実際に雰囲気の良い企業ほど定着率が高いことがデータでも示されています。
つまり、若手人材にとって魅力的なオフィスとは、「働きやすさ」と「働く楽しさ」が両立する場です。優秀な人材を確保し、定着させるには、設備やレイアウトの改善に加え、職場の雰囲気や企業文化の醸成にも注力することが不可欠でしょう。
4. “採用力を高める” ワーカー満足度向上のためのハード・ソフト施策
スピーカー:阪急阪神不動産株式会社 宮本 大貴氏
宮本氏:近年、オフィスは単なる業務空間ではなく、企業価値を体現し、共創と交流を促す場としての役割が求められています。こうした環境整備は採用力向上にも直結するため、阪急阪神では、ハードとソフトの両面から企業の環境整備を支援しています。
大学生の就職観調査では、「楽しく働きたい」という回答が最も多く、収入や出世よりも快適で充実した環境を重視する傾向が強まっています。こうした変化を踏まえ、阪急阪神は働きやすさと働く楽しさを両立するオフィス環境を提供しています。
例えば入居オフィスワーカー専用フロア「WELLCO(ウェルコ)」では、入居テナントが自由に利用できるラウンジやワークブースを整備。企業は専有部にラウンジを設ける必要がなく、オフィス設計の負担を軽減できます。

「大阪梅田ツインタワーズ・ノース」のWorker’s Lounge(ワーカーズラウンジ)や、「ハービスOSAKA_Worker’s lounge」も、社員が業務内容や気分に応じて最適な環境を選べる場として機能し、企業負担を抑えながら社員満足度を向上させています。

また、阪急阪神は「Biz-tainment~働くを、面白くする!~」のコンセプトのもと、働くことを面白くするためのソフト面の施策を展開しています。原晋監督を招いたセミナー、企業間サークル、異業種間で議論しアウトプットを行う「WBC(Worker’s Business Community)」など、社内外のコミュニティ形成を促す取り組みを実施しています。
優秀な人材を確保し、定着させるには、ハード面の充実だけでなく、ソフト面の整備にも力を入れる必要があります。阪急阪神が提供する環境は、企業の負担を抑えながら社員の満足度やエンゲージメント向上に貢献する仕組みといえます。
働く場の選択肢を増やし、コミュニティを形成し、企業間の交流を促進することで、オフィスは企業の持続的成長を支える基盤となります。長期的な視点でオフィス環境を整備し続けることが、優秀な人材確保や社員満足度向上のために必要不可欠な要素だと考えています。
5. トークセッション
トークセッションでは、4社がオフィス環境と採用力向上について、それぞれの取り組みを共有しました。

マイナビ・板谷氏:若手の採用において、新卒と中途の目線に大きな違いはありません。中途は給与を重視する傾向が強いですが、その次にオフィス環境を重視するというデータもあります。
当社では2年前に本社をフルリノベーションし、社員満足度が向上しました。改めてオフィス環境の重要性を実感しましたし、従業員が自身の貢献を感じられるオフィスは、企業の評価を高める大きな要素になり、結果採用力も向上すると考えています。
JLL・山田氏:オフィスを移転してから、働く場所の選択肢が増え、社員の満足度が向上しました。また、面接時にオフィスを見せることで求職者の興味が高まることも多く、採用にもプラスの影響を与えています。
また、エンゲージメント向上の取り組みとして、ランチの提供やファミリーデーの開催を行い、社員だけでなく家族とのつながりも大切にしています。家族からの理解や信頼が深まることで、社員自身の会社に対する愛着も高まるのではないでしょうか。
オカムラ・轟木氏:最近は、『オフィスは働くだけの場ではない』という価値が高まっています。当社では、短時間の休息を取れるスペースを設け、健康経営やエンゲージメント向上につなげています。
また、ゼミの授業の一環で学生にオフィスを訪れてもらう機会を提供し、企業と学生の接点を増やす取り組みも行っています。いきいきと働ける環境を整えることが、結果的に採用力の向上につながると考えています。
阪急阪神・宮本氏:大阪における『梅田』のビジネス拠点としての価値は非常に高いと考えています。交通アクセスの利便性はもちろん、大企業が集積し、異業種間の交流や共創が生まれる点も魅力です。
私たち阪急阪神は、ただ場所や空間を提供するだけでなく、共用部やサービスの充実を通じて企業のエンゲージメント向上をサポートし、時代に合わせてアップデートし続けることを大切にしています。
まとめ:採用力のカギは、環境への投資と価値観への対応力
本セミナーでは「採用力を高めるオフィス戦略」をテーマに、各企業が人材確保の観点からオフィス環境の重要性をデータや事例を交えて解説しました。
採用は未来への投資であり、そのリターンを最大化するには、給与や福利厚生だけでなく、職場環境を時代に合わせて進化させる必要があります。特に若手人材の価値観の変化は顕著であり、「働く場」としてのオフィスも大きく変わりつつあります。柔軟な働き方の提供に加え、共感を生む空間設計が企業の魅力を高め、採用競争の差別化要因となるのです。
本セミナーで、オフィスは単なる作業スペースではなく、企業の価値観を体現し、組織の一体感を醸成する場であるべきだという視点が共有されました。当社としても、最新の設備や快適な空間設計といった「ハード」の整備に加え、社員間の交流を促す「ソフト」施策を融合させることで、エンゲージメント向上と企業文化の強化を図るべきだと考えています。
時代に応じてオフィス環境を進化させられる企業こそが、人材の確保と定着を実現し、持続的な成長の基盤を築けます。今後、オフィスへの投資を経営戦略の一環として捉えることが、企業競争力の向上に直結するでしょう。
本セミナーを動画で視聴したい方はこちら