ABW導入を成功に導く!よくある課題と実践的な解決策をQ&Aで紹介
ABW(Activity Based Working)は、柔軟な働き方を実現するためのフレームワークとして一般的になりつつあります。しかし、実際に導入してみると、期待した効果が得られず、課題を感じる企業も少なくありません。その多くは、事前準備の不足や運用の課題によるものです。
今回はABW導入後に起こりやすい具体的な課題とその解決策をQ&A形式で紹介します。ABWを導入中の企業はもちろん、導入を検討している企業も、事前に想定される課題を把握し、対策を準備することで、より効果的な運用が可能になります。
経営者、総務担当者、現場の従業員など、それぞれの立場から見た課題を整理し、成功に向けた準備や改善策について解説していきます。ABWを実践し、企業の生産性や働きやすさを向上させるためのヒントを見つけてください。
ワークスペースの活用に関するQ&A

ABWを導入すると、オフィスの使い方やコミュニケーションのスタイルが大きく変わります。しかし、実際に運用してみると「思ったようにスペースが活用されない」「コミュニケーションエリアが機能していない」といった悩みが生じることもあります。
このセクションでは、ワークスペースの活用に関するよくある課題とその解決策をQ&A形式でご紹介します。
経営者・総務担当者の課題と解決策
Q:新設したコミュニケーションエリアを、従業員にもっと利用してもらうためにはどうしたらいいですか?
A:「場所をつくれば自然と使われるはず」と考えがちですが、実は場の存在そのものよりも、そこに“どんな体験があるか”が人を引き寄せる鍵になります。
例えば、従業員がこのエリアをどのように活用すべきか、具体的にイメージできているでしょうか。意図が十分に伝わっていないと、どれだけ優れたスペースを設計しても、活用は進みません。まずは「このエリアがどんな価値を生み出すのか」を社内に浸透させることが重要です。
また、従業員が主体的に関わる仕組みを取り入れるのも一つの方法です。例えば、エリアの使い勝手についてアンケートを取ったり、小規模な試験運用を行いながら、従業員自身の意見を反映させることで、自然と「自分たちの場所」としての意識が芽生えます。加えて、愛称をつけることで親しみを持たせたり、ちょっとした設備を整えることで利便性を高めることも効果的でしょう。
ABWの環境整備は一度作れば終わりではなく、運用を重ねながら、働く人たちが自然と使いたくなる形に育てていくものです。場を設けたその先に「どのような体験や価値を提供できるのか」という視点を持って見直してみると、新たな活用のヒントが見えてくるかもしれません。
Q:フリーアドレスを導入しても、席が固定化しています。使い方を変えるにはどうすればいいですか?
A:フリーアドレスは柔軟に席を選べる仕組みですが、人は本能的に“慣れた場所”を選んでしまうものです。
一つの考え方として、「選択肢があること」と「選びやすさ」は別の問題である、という視点を持ってみるとヒントが見えてきます。例えば、「どこに座ればいいか迷う」という心理的な負担を減らすために、ルールやインセンティブを取り入れると、座席選びがよりポジティブなものになります。また、環境を変えることで、同じ席を選び続ける習慣を自然と崩すことも可能です。
フリーアドレスはすべての従業員に最適とは限りません。無理に全員へ適用するのではなく、固定席の選択肢を残すなど、柔軟な対応も有効です。
(例:集中席・カフェ風席・コラボ席)
フリーアドレスの成功には、環境を整えるだけでなく「どうすれば選びやすくなるか」を考え、運用の工夫を積み重ねることが重要です。ルールの設定だけでなく、自然と席を変えたくなる仕掛けを整えることで、より効果的な運用が可能になります。
現場社員・管理職の課題と解決策
Q:フリーアドレスで上司や同僚の居場所が分からず、連携が難しいです。どうすれば解決できますか?
A:フリーアドレスで上司や同僚の所在が分からず連携が難しい場合、まずは従業員同士で解決策を模索することが大切です。チャットツールや共有カレンダーを活用し、日々の動きや予定を共有する習慣をつけることで、スムーズに連絡を取れる環境を整えましょう。また、短時間の対面ミーティングや1on1を意識的に取り入れることで、リアルなコミュニケーションを補完することも効果的です。
さらに、会社として位置情報を可視化するアプリや在席管理システムを導入するのが最適な解決策です。もし可能であれば、従業員から会社に提案し、導入を働きかけてみてください。実現が難しい場合でも、現場レベルで工夫を継続することが重要です。普段の業務フローの中で「誰がどこにいるか」を意識し、互いにスムーズに連携できる環境をつくっていきましょう。
コミュニケーションとエンゲージメントに関するQ&A

ABWを導入すると、働き方の自由度が増す一方で、「チーム内のコミュニケーションが減った」「社員の帰属意識が薄れてしまった」といった課題が生じることがあります。リモートワークやフリーアドレスが進む中で、いかに組織の一体感を保ち、社員のエンゲージメントを高めるかが重要なポイントです。
このセクションでは、ABW導入後に直面しやすいコミュニケーションやエンゲージメントの課題と、その解決策をQ&A形式でご紹介します。
経営者・総務担当者の課題と解決策
Q:働き方が柔軟になった反面、会社への帰属意識が薄れている気がします。どう対応すべきでしょうか?
A:帰属意識とは「企業が与えるもの」ではなく、「従業員が自然と感じる環境をどう作るか」が重要なポイントになります。
リモートワーク等の普及により、対面の機会が減ることで「雑談」や「偶発的な会話」がなくなり、会社への愛着が薄れることがあります。このような状況では、単に出社を義務づけるのではなく「集まりたくなる理由」を設計することが効果的です。
オフィスを単なる「作業場」ではなく、「企業文化を感じ、一体感が生まれる場」に変えることが、これからの経営戦略の鍵になります。帰属意識を強化し、社員が企業のビジョンに共感し続けるためにも、オフィスの役割を再定義し、戦略的に運用を見直していくことが求められています。
現場社員・管理職の課題と解決策
Q:フリーアドレスでチームが離れて作業するため、コミュニケーションが減っています。どう改善すればいいですか?
A:フリーアドレスによって、チーム間のコミュニケーションが不足している場合、物理的な配置と心理的な工夫の両方を取り入れるのがポイントです。
まず、物理的な対策としては「グループアドレス」の活用が効果的です。グループアドレスとは、チーム単位で座る場所を定めるフリーアドレスの運用方法で、チームの結束を維持しつつ柔軟な働き方を実現できます。また、会社に相談し、一部のエリアを予約制のグループアドレスとして整備してもらうことで、必要に応じて固定的に集まれる環境を整えることも可能です。
一方で、心理的な接点を増やすことも不可欠です。1on1や短時間のミーティングを積極的に取り入れるなど、定期的に顔を合わせる機会を作るのが効果的です。こうした工夫によって、チームの連携を強めるだけでなく、メンバーの主体性を引き出し、よりスムーズな協力体制を築くことができます。
Q:部下の進捗が把握しづらくなり、マネジメントに支障があります。改善策を教えてください。
A:働き方の多様化により部下の進捗状況が見えにくくなった場合、マネジメントの視点を変えることが重要です。 従来の個別管理ではなく、チーム全体の進捗や成果に注目するスタイルに切り替えましょう。部下が目の前にいない環境では、業務の細部を管理するのではなく、組織全体の動きを把握する視点が求められます。
例えば、タスク管理ツールを活用し、進捗を可視化する仕組みを導入すれば、メンバー全員が同じ情報を共有できるようになります。また、定期的な1on1やチームミーティングを実施し、課題や成果を共有する場を確保することで、進捗の把握と信頼関係の強化が同時に可能になります。
オランダの電力会社エッセントでは、マネージャーが業務の細部管理から全体の流れを重視するスタイルに移行した結果、生産性が15%向上し、社員の病欠が20%減少したという実績があります。このように、柔軟な働き方に対応する新しいマネジメント手法を取り入れることが成功の鍵となります。
ツールや運用に関するQ&A

ABWをスムーズに運用するためには、新しい働き方に適したツールの活用や、柔軟な運用ルールの整備が欠かせません。しかし、「導入したツールが十分に活用されていない」「ルールが定着せず混乱している」といった課題も多く聞かれます。
このセクションでは、ABWの定着を支えるツールの活用方法や、効果的な運用のポイントについて、Q&A形式でご紹介します。
経営者・総務担当者の課題と解決策
Q:セキュリティ対策が働き方の変化に追いついていません。どうすれば安全性を高められますか?
A:セキュリティの課題に対処するためには、ペーパーレス化を軸とした運用改善が重要です。まず、紙資料の扱いを減らし、デジタルデータへの移行を進めることで、どの席にいても必要な情報に安全にアクセスできる環境を整えましょう。これにより、書類の紛失や不正使用を防ぐだけでなく、クラウドベースのファイル共有システムの導入を通じて、アクセス権限を適切に管理し、外部へのデータ流出リスクを最小限に抑えることができます。また、これらの施策により、業務効率化やスペースの有効活用も実現可能です。
ただし、「ペーパーレスにするだけ」では不十分で、従業員が使いにくさを感じることもあります。従業員がスムーズにデジタル化へ移行できるよう、トレーニングプログラムの導入が効果的です。例えば、デジタル署名やスキャンツールの活用方法を共有し、紙資料を使用しないプロセスを標準化することで、セキュリティと効率性を両立させることが可能です。
Q:新入社員や異動してきた社員にオフィスルールを毎回説明するのが負担です。効率的な方法はありますか?
A:マニュアル化と視覚的なルール共有を組み合わせるのが効果的です。まず、基本的な運用ルールを分かりやすいマニュアルとして整備し、更新可能な形式にしておきましょう。オフィスの使われ方は時間とともに変わるため、定期的に従業員アンケートを実施し、フィードバックを反映する仕組みを作ることも重要です。
また、オフィス内のルールをアイコンや掲示物で視覚的に伝えるのも有効です。例えば、「ここではWEB会議NG」「ランチタイム仕事NG」など、アイコンで示すことで、入社直後の社員でも直感的に理解できます。
ABWを導入している企業の一例として、コクヨ株式会社では、新入社員向けに半年間の「フレッシャーズシート」を設け、質問しやすい環境を整えています。また年に最低でも1回はルールブックの更新を行っており、新入社員や新たな配属者に向けて、オフィスの運用説明会を定期的に開催しています。
Q:ペーパーレス化のためのタブレットが活用されていません。利用を促進するにはどのような方がありますか?
A:タブレットが十分に活用されていない原因は、使い方が分からない、活用するメリットを実感できない、業務としての優先度が低いといった点が考えられます。単に支給するだけではなく、活用を促す仕組みを整えることが重要です。
まず、タブレットを使うことで具体的に業務がどう効率化されるのかを明確に伝えましょう。例えば、「会議の資料を印刷せずにタブレットで閲覧すれば年間○○時間の作業削減につながる」といった、定量的なデータを示すと納得感が高まります。
次に、トレーニングプログラムやヘルプデスクを設置し、「分からないから使わない」を防ぐ環境を作ります。加えて、ABWの本来の目的とタブレットの役割を社内で共有し、活用度合いを評価制度に反映することで、意識的な活用を促進できます。
また、セキュリティ対策の重要性も伝え、情報管理のガイドラインを整備することで、社員が安心して活用できる環境を構築することも忘れてはいけません。
現場社員・管理職の課題と解決策
Q:オープンスペースでのオンライン会議時に、周囲の声が気になって集中できません。どうすれば解決できますか?
A:オープンスペースでのリモート会議は便利ですが、音が響きやすく、他の会議や業務の妨げになることがあります。まず、イヤホンの使用を徹底し、必要に応じてイヤホンジャックを備えた機器を導入するよう総務に提案するのが有効です。複数人での会議時にも、周囲に音を漏らさずスムーズに進行できます。
また、会議用の個室ブースや防音パネルの設備投資を会社に働きかけるのも解決策の一つです。最近のオフィスでは、個室ブースの活用が進んでおり、アンケートを取るなどしてニーズを伝えることで導入が検討される可能性があります。
さらに、会議ルールを見直し、オープンスペースでの大音量会話を控えるガイドラインを作成するのも効果的です。会議場所を適切に選ぶ意識を持つことで、快適なオフィス環境を維持できます。
まとめ
ABWを導入することは、単にオフィスのレイアウトを変えるだけでなく、企業文化や働き方そのものの変革を促すものです。スペースの効率化や業務効率の向上だけでなく、従業員の意識改革や企業の魅力向上にもつながるため、今後の経営戦略として不可欠な要素となっています。特に、オフィスが単なる経費ではなく、人材への投資として捉えられる時代へと移行している今、働き方の見直しを積極的に行う企業ほど、優秀な人材を引きつけることができるでしょう。
しかし、ABWを成功させるためには、運用の継続的な改善が不可欠です。どれだけ優れた環境を整えても、適切な運用がなければ、その効果は十分に発揮されません。従業員が新しい働き方を受け入れ、主体的に活用できるよう、定期的なフィードバックや施策の見直しが求められます。また、コミュニケーションの活性化はモチベーション向上の鍵となるため、チームや組織全体の交流を促す仕組みを整えることが重要です。
阪急阪神グループが展開するオフィスビル「大阪梅田ツインタワーズ・サウス」では、ビル全体でABWを促進する環境が整備されており、導入をスムーズに進めることができます。特に、入居オフィスワーカー専用フロア「WELLCO(ウェルコ)」には、カフェ、ラウンジ、フィットネス、リフレッシュルームなどが完備されており、自社オフィス内でABW環境を整えなくても、柔軟な働き方を実践できる環境が用意されています。
ABWを導入する際には、適切な環境の選定と運用の工夫が重要です。自社に合った形でABWを取り入れ、企業価値をさらに高めるためにも、戦略的なオフィス選びを進めていきましょう。